コンパスは月を指す

宇宙旅行を考える駆け出し宇宙工学者。 Twitter: @AllAstroDream

補足 無重力状態か?無重量状態か?

 

この記事は第4回の記事の補足記事なので、まだ本編を読んでいない方は先にこちらから読んでほしい。

 

 

さて、第4回の記事を投稿した後、ある方から「無重力状態という言い方は間違いで、『無重量状態』と言わなければならない」というご意見をいただいた。

確かに第4回の記事で僕自身も言っている通り、この世界に物質がある限り無重力というのは絶対にあり得ないので、「無重力状態」という言葉もおかしいのでは、というご指摘だ。実際この「無重力状態vs無重量状態」の議論はあちこちで散々やられていて、「無重量状態」と言う方がより厳密だ!という結論でほぼ一致している。僕もこれには賛成だ。

 

 

にもかかわらず、第4回の記事ではあえて僕は無重力状態という言葉を使うことにした。理由の一つは、「無重力」と「無重量」は多くの場合ちゃんと区別がなされているのに対して「無重力状態」と「無重量状態」とは曖昧に使われている場面が多いからだ。多分、「~状態」という言い方がそもそも曖昧な表現なので、きちんと区別がしにくいのだと思う。重力でも重量でも、「見かけ上ゼロに見える状態」と言えばそんなに間違った表現とも言い切れないからだ。

そしてもう一つの理由は、そのように厳密な区別ができないなら「無重力状態」を使った方がこの記事の本質の部分をより多くの人に届けられると判断したからだ。つまり、「無重力状態と無重量状態、どちらが正しい言いまわしか?」というやや本質からそれる議論で字数を使って文章が間延びし、読んでいる方を飽きさせたり本質が埋もれたりしては意味が無いので、より一般的な読者の方に説明無しで受け入れてもらえる「無重力状態」という言葉を選択したのだ。もっとも、その議論を入れたぐらいで間延びしてしまうのはお前の文章力が無いからだ、と言われればそれはそうかもしれない。

 

 

 

僕のブログの役割は何だろう?ということを、第0回の記事を書いた時から意識している。今や宇宙に関する記事なんてネットで探すだけでも大量に見つかるのだから、「正しい宇宙の知識を提供する」という部分の価値は僕のブログでは低いと思っている。実際、僕が第1回~第4回で選んだトピックも新規性という意味では大した価値はない。それよりも僕のブログが担うべき役割は、宇宙について知識のないなるべく多くの人が抵抗なく読み切れ、本質を理解でき、それを元に自分で想像を膨らませることのできる知識材料を提供することだ。だから、時には多少厳密さを犠牲にしてでも、嘘をつかないギリギリのラインまで記事の読みにくさを下げる方が全体の価値としては高まるし、僕のブログの掲げている目標もより達成される。

実際、僕も言葉遣いは気にする方なので「厳密にはちょっと違うんだけどな……」と思いながらもそれをグッと堪えて、文章をすっきりさせる方を優先する判断をすることが多い。書こうと思えばいくらでも細かく書けるけど、それをすると価値がグンと下がってしまうのだ。

 

 

 

 

ところで「無重量」という言葉がより厳密だからといって、よく考えずに定義を曖昧にしたまま使っていると痛い目を見る。重量の定義は一般的に「重力の大きさ」と言われることが多いが、この定義だとやはり宇宙のどこに行っても重力が無くなることはないので、無重量はこの世にあり得ないことになる。僕が一番納得したのは五十嵐靖則先生の以下の記事だ。ここでは、重量を万有引力と慣性力の合力の大きさと定義している。こう言わないと無重量という言葉は正しくない。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/pesj/36/1/36_KJ00005895583/_pdf

 

「無重力」と「無重量」の区別を明確にしながらも、些細な言い回しの違いに囚われて本質を理解できなければ本末転倒だという意見もある(青野修先生)。これは僕の考えに近い。大事なのは「無重力状態と無重量状態、どちらが正しい言い回しか?」ではなくそこで起きている現象を正しく説明できることだ。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/pesj/53/4/53_KJ00005898155/_pdf/-char/ja

 

 

 

僕の記事ではこれからもこういった指摘をたくさんいただくと思う。だからと言ってブログの方針を変えることはせず、指摘がある度に議論でカバーしようと思っている。また、本文で端折ったら脚注でできるだけ補足しようと思う。これからも「無重力状態」や、場合によっては「無重力」という言葉を使う場面が出てくると思うが、もしこの先何年か経って一般の方の中で「無重量」の方が聞き馴染みがあるという人が増えればしれっと無重量という言葉に変える日が来るかもしれない。というか、そういう日が来てほしい。

僕の記事を元に議論が生まれることは素直に嬉しい。気になったことがあれば是非遠慮なく意見を下さい。